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中日事情あれこれ

「ラーメン」と「餃子」ー郷に入っては郷に従え


 「ラーメン」と言えば、日本では国民食と呼ばれるほど広く親しまれる料理の一つです。皆様方もご存知かもしれませんが、通常カタカナで表記している「ラーメン」の語源は中国語の「拉面」(la mian)という説があります。元々中華料理から発展してきたもので、長い歴史の中で日本食文化となってきたのだと思いますが、中国語音読の「ラーメン」という名称をそのまま継承してきたのでしょう。その種類もいろいろあり、醤油ラーメンや塩ラーメン、味噌ラーメン、豚骨ラーメンなどがありますね。

 一方、その起源地の中国では、今でも人気を呼んでいるラーメンと言えば、中国北西地域の蘭州拉面となっています。中国語の「拉面」の「拉」とは「引っ張る」という意味で、コックさんはお客様の前で手元の麺の塊を徐々に引っ張って数回にわたって両手で交互に持ち替えて、最後に振り終わった時点で1個の塊が百数本の銀色の針のようになり、沸騰したスープに落としていきます。実にすばらしいショーです。スープの特徴は麺が一本一本はっきり見えるほど透通っているというところにあります。そして牛肉、大根を載せて、更に少しお酢を入れていただきます。中国人が最も好む麺の食べ方の1つでしょう。

 私が日本のラーメン屋さんやファミレスに行くといつもおもしろいと思っていることが1つあります。それは日本の餃子です。日本では、餃子は料理であり、おかずの一つです。しかし、中国では、餃子はまずおかずではありません。主食です。その種類も水餃子と焼き餃子の2種類あります。後者はほぼ日本の餃子に近いようです。大体一度に500gのロットで注文するケースが多いでしょう。餃子は専門店となっているところが多く、可愛い女の子2~3人が20~30個ぐらいの焼き餃子を囲んで歓談しながら食べる風景はいたるところで見られます。

 また、もう1つおもしろいと思っていることは、餃子を醤油につけて食べることでしょう。中国では、まず醤油につけて食べることはしません。醤油は料理を作るときに使うケースが多く、餃子やワンタン、麺を食べるときはほとんどお酢をつけます。お酢については、中国の北方と南方で大別すると2つの種類のお酢があります。北方では山西省の「老陳酢」、南方では江蘇省の「鎮江香酢」を使うのが一般的です。

 先日中国で幼馴染の友人と食事をした時のことです。テーブルの隣のガラス越しに見えるおしゃれな店の看板に「味千拉麺」と書かれた4文字のネオンが輝いていました。それは日本九州の豚骨ラーメンである味千ラーメンです。2000年に上海に1号店を出店して以来、特にこの数年早いスピードで中国全土をカバーし、チェーン店経営を進めているラーメン店です。北京、上海のターミナル内にも既に出店し、一躍ケンタッキーフライドチキン、マグドナルドと肩を並べられるほどポピュラーなファーストフード店となりつつあります。私も空港へ行くたびに足を運びたいほどの人気店となっています。列に並んで待つこと平均5分、席について注文してからラーメンが来るまでの待ち時間は平均10分ぐらいでしょう。ちなみに、メニューでは一番安いラーメンが19元(約250円、1元=13元)で、中国独自のラーメンである蘭州拉面(8元、約100円、注:北京相場による)の2.5倍となっています。

 17年前の北京に記憶を遡ります。当時私が夏休みを利用して遠路はるばる北京に遊びに来る友人にご馳走する外国料理と言えば、日本の「札幌ラーメン」でした。90年代に北京に3~4店舗ありましたが、90年代の後半から一気に退店したようです。その1店舗は私の大学の向かいにある北京テレビ局のそばでした。メニューは非常にシンプルで、ラーメンの種類は醤油ラーメン、味噌ラーメンと塩ラーメンの3種類でした。値段は10元(約130円)ですが、今の金銭感覚では現在の20元相当だと思います(今の味千ラーメンと似たような価格設定かもしれませんね)。当時の蘭州拉面も確か4元(約50円)程度でした。北京テレビ局前の札幌ラーメンに来るお客様は主にわれわれのような日本語専攻の学生と日本人留学生でした。知り合いの日本人留学生は、味は非常に日本的な味だと言っていました。

 しかし、先月九州に出張に行ってきたばかりの幼馴染の友人は「日本の豚骨ラーメンはここの味千ラーメンの味と同じじゃないなー!」と言い、その一言に驚きました。いつもお世話になっている帝国データバンクネットコミュニケーションの岡崎社長が訪中の際にも同じことを言っているのを聞いたことがあります。中国人も日本人も中国にある日本料理に対し同じような印象を持っているようですね。それでもかなり売れています!

 ふと「郷に入っては郷に従え」という諺を思い出しました。地元の人の味覚、好みをうまく調和させたのかもしれません。食文化が国際的に交差している昔でも今でも、郷に従っているものは後世に残っていくものだと思います。ラーメンや餃子という文化は日本の文化にうまく溶け込んだからこそ今でも人気があるのでしょう。また、ケンタッキーフライドチキンやマクドナルドは中国人の食文化や中国の地域的な特徴に合わせた中国独自の食品開発を成し遂げたためにこの20年ほどでマーケットを拡大することができたのだと思います。味千ラーメンも恐らく札幌ラーメン等の今まで進出した日本式ラーメン店の失敗談を踏まえたうえで吟味したメニューと味を提供しているのかもしれません。

 とは言え、「郷に従え」というのはいかにも難しいことでしょう。その前提条件として、異郷の風土、人物、習慣、文化等を理解しなければなりません。易しいことなら教訓や経験としてこのような諺も残らないのではないでしょうか。「百聞は一見に如かず」という諺があるように、まずは中国大陸に足を運び、現在の状況をご自身の目や耳で確認してみませんか?

  (2010年8月 株式会社ソフテック 楊)

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